プレストーリー二人の約束

side L
「シーちゃーん、シーちゃーん?」
 とにかく、僕は彼女の名前を呼びながら走っていた。まず、彼女を探すこと。そうしないと、何も出来ない。励ますことも、慰めることも。
「シーちゃーん?シーちゃぁーん!」
 アバロンの町を、何週したんだろうか…もうその回数すら忘れてしまった。彼女がいなくなってから、だいぶたっている。
「シーちゃぁーん!聞こえてたら返事ぐらい…」
「…うるさいな…」
「うわぁっ!!」
 立ち止まり、声を張り上げた僕の背後から唐突にかけられた声に、思わず変な声を上げてしまう。僕は慌てて後ろを向いた。
 そこには…
「…ライブラ、ちょっと黙ってて」
 少し落ち込んだ顔をした、シーちゃん…シーデーが立っていた。
「…どうしたの?何があったの?」
「…黙っててって言った。それに、知ってるんでしょ?」
「…うん…」
 そう、僕は何があったのか分っていた。実際にそれが起きた場所にいたわけでも、誰かに聞いたわけでもなかったけど、分っていた。彼女が落ち込む理由なんて、一つしかないから。
「…また、笑われたんだ…?」
「・・・・・・」
 無言、沈黙。それは、肯定を意味する。
「ライブラも変だって思ってるんでしょ、あたしの夢」
「僕はそんなこと思ってないよ。素敵な夢だと思うよ?」
「…ウソ。自分だって分ってる。あたしの夢が、変だって事くらい」
 笑われただけで、普段強気な彼女が落ち込んでしまうほど大切にしている夢、それは・・・
「皇帝になって、世界の果てを見てやる、なんて…変よ、やっぱり」
 ジェラール様という方の次の代から、皇帝という位は血族ではなく、皇帝によって選ばれた人が受け継ぐ、という仕組みになったらしい。とにかく、僕が生まれたときには、そう発表されていた。
 それは、僕のような皇族とは何のつながりもない下級貴族や、シーデーのような平民も皇帝になれる可能性がある、ということだ。今の皇帝陛下に…サジタリウス様に選ばれさえすれば。
 だけど、選ばれるためには、まず会わなければならない。会えなければ、選ばれるわけなんてない。そして、僕らが直接サジタリウス様に会える機会なんて、無いに等しい。
「あたしだって分ってるの。無理だって事くらい。不可能だって事くらい。だけど…」
 言う彼女は、ひどく小さく、ひどく弱々しく見えた。彼女らしくないその姿を見て、僕は思わず口を開いていた。
「…方法が無いわけじゃないよ」
 言った僕を、彼女が驚いた顔で見てくる。言い出してしまった以上、最後まで言うしかない。僕は腹をくくった。
「シーちゃん、君は傭兵に…フリーファイターになるんだ。今日調べてみたんだけど、女性で数年後に、でも、近いうちに隊を抜ける人がいるんだって。その人が抜けたところに入り込めば、宮殿の中に出入りできるようになる。そうすれば、サジタリウス様に会える可能性だって出てくる」
「フリー、ファイター…」
「僕は、宮廷魔術士になる。なってみせる。なって、サジタリウス様に会ってみせる。シーちゃんは?」
 僕がそこまで言い切ると、彼女の顔に、やっといつもの強気な表情が浮かび始めた。
「…ふん、あんたが会う前に、あたしが会ってやるわよ。なってやろうじゃない、フリーファイターに」
「じゃ、競争だね」
 言って、笑う。シーデーも、やっと笑ってくれた。
「…とにかく、今日は帰ろ?おじさん達、心配してるよ?」
「…分った」
 答えて歩き出した彼女の後ろを、僕がついてゆく。これが、僕と彼女の本来のポジション。…僕のほうが一つ上なんだけど。
「ライブラ…」
「何?」
「あたしが皇帝になったときにあんたが宮廷魔術士になってたら、世界の果て見に行くのにつき合わせたげる」
 それが彼女の、精一杯の感謝の言葉だってわかってるから、だから。
「じゃあ、僕は帰りに迷わないように世界の果てまでの地図を作らないとね」
 そして、二人同時に。
『約束、だよ』

 次の日から、僕らは会えなくなった。僕も、彼女も、それぞれの勉強や訓練で忙しくなったから。
 でも、僕は信じていた。彼女とまた会えることを。アバロンの宮殿の中で会えることを。

 その日の約束は、僕が十歳で彼女が九歳の時の思い出であり、僕にとって最も大切なものとなる。

 初めて書いてみたロマサガ2です。
 …駄作です…。(汗)
 とりあえず、シーデーとライブラの、二人がまだ宮殿に上がっていないときのお話です。
 この数年後、ライブラ君はこの約束を後悔することになる…かも。

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